今回は「土地や住居からの立ち退き」のお話をします。もしも地主(貸主)から「土地を返して欲しい、住居から出て行ってほしい」と言われたら…、やはり出て行かなくてはならないのでしょうか?

 次の中で、地主から土地や住居からの立ち退きを請求され、借主が返したり、出て行かなくてはならないケースは次のどれでしょうか?

① 子供が住むためにこの土地が必要だから、出て行ってほしい。
② 貸している土地を買い取ってほしい。もし買い取れないなら出て行ってほしい。
③ 賃料を増額したい。もし賃料増額が了承できないなら出て行ってほしい。

 正解は・・・この中にはありません。土地でも建物でも、不動産を借りる際は「賃貸借契約」を結びます。基本的にこの契約に縛られますので、いきなり地主から「土地や住居から出ていってほしい」と言われても、借主に応じる義務はありません。

 もし契約解除をしたいのであれば、最低でも6か月前に借主に通知しなくてはなりません。そして、地主から契約解除を打診されても、借主は断ることができます。なぜなら、地主から契約解除をするためには「正当な事由」が必要だからです。

 「正当な事由」とは、『契約解除しないと地主(貸主)の受ける損害が大き過ぎるため、借主が泣くのもやむを得ない状態』です。上記①~③に記載した事由では、どれもこの状態にならないため、地主からの契約解除が認められることはまずないでしょう。ちなみに、この「正当な事由」に該当するか否かを判断するのは、裁判所になります。 

 次に地主から買取請求や賃料増額請求があり、借主がそれを断ったとします。もしその後地主から立ち退きを請求されても、借主は応じる必要はありません。立ち退き請求と買取・賃料増額請求はまったく別のお話だからです。

 
 さらに「期間満了を以って契約終了とするから、出て行ってくれ」と言われることも考えられます。この場合も定期借地や定期借家契約でない限り、基本的には地主は契約を更新しなくてはなりません。つまり、契約期間満了であっても、地主から契約解除するためには「正当な事由が必要になる」ということです。

 それでも地主から「どうしても契約を解除して出て行ってほしい」と言われたらどうなるのでしょうか?この場合は、それなりの経済的補償と引き換えに契約解除に応じる、つまり「立ち退き料をもらって出て行く」ということになります。立ち退き料をいくらにするかは、当事者間の交渉になりますが、調停や裁判で決められることもあります。また、不動産鑑定士が立ち退き料の鑑定評価を行いご提示することもあります。 

 長々と書いてきましたが、結論は「地主より借主の方が強い」のです。不動産は生活や経済活動の基盤ですが、地主の都合で一方的かつ不意打ち的にその基盤を奪われてしまったら、借主の受ける損害があまりにも大きすぎます。そこで借地借家法という法律があり、そして「借主」を保護しているのです。とは言うものの「お借りしている立場」からすると、出て行かなくてはならないと思ってしまう気持ちもわかります。

 どうにもこうにも当事者間の話し合いで決着がつかなければ、調停や裁判で決着をつけることになります。この場合でも地主の言い分が認められるためのハードルはとても高く、借主の言い分が認められる可能性の方が高いのが現状です。