私は、今でこそ不動産鑑定士ですが、前職は金融機関に勤務していました。それなりの金融知識はあるつもりですが、各金融機関との間で資本関係や利害関係はありません。それを踏まえた上でお読みください。
先日、知り合いから「住宅ローンを借り換えた方がいいか?ネット銀行とかすごく金利が安いから…。」という相談がありました。借りている金融機関で相談すれば引き留められるし、他で相談すれば借換した方がいいって言われるのは分かっているから、第三者の目線で教えて欲しいということです。
第三者の目線(公正中立の立場)で見る…不動産鑑定の基本です。モデルとして「借入残高が2500万円(ボーナス返済なし)、返済期間30年、年利0.95%(変動)」で検証してみました。検証前提として金利はずっと変わらないものとします。
①借換せずこのまま継続する …総支払金額「2,874万円」になります。この数字が基礎となります。
②他行で借換(借入金額2500万円、返済期間30年、年利0.5%) …総支払金額「2,768万円」、差額は▲106万円となります。総支払金額の内訳は「元利金 2,693万円、事務手数料・登記費用等の諸費用 75万円」です。
この数値だけ見ると、借換した方がトクに思えます。金融機関が強調するのも「▲106万円おトクになりますよ」です。これで借換を決意される方がいるのも事実です。でもココからが重要なポイントです。実は②の計算では不十分なのです。
諸費用として「75万円」がかかります。この75万円は最初に用意する必要があります。したがって、③借入金に上乗せする、④自己資金で用意する のどちらかを選ばなくてはなりません。検証してみましょう。
③借入金額に上乗せ(借入金額2,575万円、返済期間30年、年利0.5%)… 総支払金額「2,773万円」、差額は▲101万円となります。内訳は「元利金 2,773万円」です。
次に「諸費用の75万円を自己資金」で出す場合ですが、借換えをせず自己資金を原資に「繰上返済」したら、どうなるのでしょうか?検証してみましょう。
④自己資金を繰上返済して継続する(繰上返済後の借入残高2,425万円、返済期間30年、年利0.95%) …総支払金額「2,787万円」、差額は▲87万円となります。
諸費用を自己資金で出して借換する…これは上記②のパターンです。これが最も借換えによる差額(106万円)が大きくなるように見えますが、自己資金で繰上返済に充当する④のパターンと比較しても、19万円しか差額がありません。30年間で19万円、年間で6,333円、毎月500円の差です。正直、「誤差の範囲」かなと思います。
わざわざ19万円(しかも30年間で!)の差額のために、面倒な手続きを踏んで借換えをするよりも、手軽な繰上返済を何回もしていく方が、費用・手間対効果でも高い、つまり顧客にとっても借換するメリットはないように思えますが・・・なぜ金融機関の職員が熱心に借換えを勧めてくるのでしょうか?
あまり言いたくありませんが、金融機関によっては「金融のプロ」と言うよりも「ノルマに追われたセールスマン」という色合いが強いこともあります。過酷なノルマに追われた挙句、新聞紙上を賑わした複数の金融機関も記憶に新しいところです。
もし借換えを検討するのであれば、上記③・④のシミュレーションをしてもらってから進めていきましょう。