不動産鑑定士としてお客様とお話しする中で、やはり相続に対する考え方が違っています。特に思うのは「自分が死んだ後は自由にしていい」という方が多いことです。裏を返すと「自分が死んだあとは自由にしていい。でも生きている間はダメですよ」です。
相続セミナーの案内を見ていると「遺言を残す」とか「相続税について」「相続税と不動産」とかの内容が目立ちますが、遺言を残すためには財産分割が必要です。特に不動産がある場合は、その価値を決めなくてはなりません。また、相続税については完全に亡くなった後のお話です。そして相続税を払うのは自分ではありません。相続する人たちです。もっと言うと「相続税がかからない人」の方が多数です。資産家以外は相続は関係ないとでも言いたいのでしょうか??

私が金融機関に勤務していた時は「多重債務・クレジットサラ金問題」から勤労者を守る活動をしていました。なぜか?大切な職場の仲間を守ること、会社にとっても社員が借金問題で頭がいっぱいになってしまうと、いい仕事ができないばかりか周囲に悪影響を与えかねません。でも今は「借金苦で自殺」という話はあまり聞きません。改正貸金業法の施行や「借金問題は解決できる」ことが広く知られるようになりました。また、多重債務は全員が必ず直面する問題ではありません。やむにやまれぬ事情に起因することもありますが、「飲食やギャンブルなど自己の遊興目的で借金を重ねた人たちをなぜ救済しなくてはいけないのか?」というすっきりしない心情や、人に言い出せないという言わば「ネガティブな側面」が大きい問題です。

相続は違います。言葉は悪いですが「何もしていなくてもいつかは直面する問題」です。多重債務問題のように「自分は関係ない」と言えません。むしろそう思っている人の方が危ないかもしれませんね。多重債務問題は「自分と貸金業者」の問題ですが、相続は「自分と相続人(家族)」の問題です。お金の問題ではなく人間関係の問題です。それだけに完全解決が難しく、また一旦家族間で亀裂が入ってしまうと「絶縁」になってしまうかもしれません。

私も小学生の子供が二人いますが、二人が並んで寝ているのを見ると言葉にできない幸せを感じます。イライラしていても笑顔になります。そんな二人が将来自分の財産をめぐって「絶縁」になる・・・そんな結末は望んでいません。自分としては少しでも多くの財産を残してあげたいとも思いますが、逆にそれが何十年後かに「子供たちの絶縁」を招く可能性を高めるのです。そうならないためには、自分が元気なうちに方向性を示すことが大切です。費用をかけてでもやるべきでしょう。子供たちが自分が死んだ後も「笑顔」で仲良くしていてほしいならなおさらでしょう。